「ハラスメントの定義を考えよう」

ー包括的ハラスメント法制定に向けて

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近年、「チョコハラスメント」や「ホワイトハラスメント」といった言葉に象徴されるように、本来は法的概念として整理されていない事象までが「ハラスメント」として語られる場面が増えています。問題意識の広がり自体は重要である一方で、概念の拡張が進みすぎることで、「何でもかんでもハラスメント」と受け取られかねない状況が生まれ、社会的な混乱を招いているのが現状です。本来救済されるべき深刻な被害が埋もれてしまうという点も、看過できない課題です。

■ 日本における課題


日本では、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントなど、個別の類型ごとに法整備が進められてきました。しかし、それぞれの定義や適用範囲は法律ごとに分かれており、「ハラスメントとは何か」という包括的な定義は存在していません。
その結果、
・法的なハラスメントと日常的に使われる言葉の間にズレが生じる
・判断基準が現場ごとに委ねられる
・新たな「〇〇ハラスメント」が次々と生まれる
といった状況が生じています。

この構造は、教育や職業選択におけるジェンダーギャップの問題とも通底しています。たとえば、学力に大きな差がないにもかかわらず、ICT分野への進路選択において男女差が顕著に現れるように、個々の能力の問題ではなく、制度や環境、無意識の前提が結果に影響を与えているケースがあります。ハラスメントについても同様に、個別事象の切り分けだけでなく、その背景にある社会的構造を踏まえた整理が必要です。

■ 海外におけるハラスメントの定義


一方、海外ではハラスメントはより包括的に定義されています。たとえばEUの法体系では、ハラスメントは
「望まない言動であり、個人の尊厳を侵害し、威圧的・敵対的・屈辱的または不快な環境を生み出すもの」
と整理され、性別や人種、宗教など幅広い差別禁止の枠組みの中で位置付けられています。

ここで重要なのは、特定の行為類型に限定するのではなく、
“その行為が人の尊厳や環境にどのような影響を与えたか”
という観点から横断的に判断される点です。

またアメリカにおいても、「合理的な人が見て敵対的・不快と感じる環境を生じさせるか」という基準が用いられ、判例の蓄積によって判断の枠組みが明確化されています。

このように海外では、定義を基盤として個別事案を判断する仕組みが整っており、社会的な共通理解と法的救済が結びついています。

■ 当事者団体としての問題意識と提言


私たちTomorrowは、ハラスメントの当事者の声に基づき活動する団体として、この問題の構造的な解決に取り組んでいます。先日の院内集会では、「包括的ハラスメント法」の制定を求め、断片的ではない法的枠組みの必要性を提言しました。

ハラスメントの定義が曖昧なままであれば、
本来守られるべき被害が十分に救済されない一方で、概念の過剰な拡張による混乱も続きます。
だからこそ、尊厳侵害という本質に立ち返った共通の定義と、それに基づく実効性ある救済制度が不可欠です。

今後は、関係省庁や国会議員への働きかけを継続するとともに、弁護士や研究者などの有識者と連携し、定義のあり方や制度設計に関する勉強会・研究会を開催していきます。現場の実態と理論の双方を踏まえながら、社会にとって実効性のある提案へとつなげていきます。

■ 皆さまへ


ハラスメントの問題は、個人の問題ではなく、社会の仕組みそのものに関わる課題です。私たちは当事者団体として、その実態と向き合い続け、より良い制度の実現を目指していきます。

本取り組みを前進させるために、ぜひ皆さまの率直なご意見をお寄せください。